迷いの教室棟、8号館

ご存じない方のために、あらためて説明しよう。「8号館」とは、中央大学多摩キャンパス内にある大教室棟のことである。必修・選択科目の多くの授業や、著名人を招いた講演会などに利用されており、学部を問わず、4年間でもっとも利用する教室棟といっても過言ではない。

場所はキャンパス内でもかなり奥のほうにあり、学生のほとんどが利用する東門(最寄りは「中央大学・明星大学駅」)を入ってから徒歩で10分弱かかる(8号館までの地図)。

筆者は迷ったあげく授業開始までに教室にたどり着けず、結果として数々の単位を落としてきた。それが、この建物が「魔の8号館」と呼ばれるゆえんだ。さらに、その原因を8号館のせいにしている(本当のことをいうと僕のやる気の問題です)。

きっと同じように単位を落としている学生がいるのではないか?
これ以上、悲しき仲間たちを増やしてはいけない……
そんな思いから、独断と偏見による「8号館完全攻略マニュアル」を作成することにした。

8号館は世界遺産「トラブール」に似ている!?

8号館は、世界遺産「トラブール」を模してつくられたという伝説がある。トラブールとはフランス・リヨンにある迷路のような通路で、古くから絹織物の盛んだったこの地区で、絹織物を雨から守り濡らさず運ぶためにつくられた。まるでアリの巣のように複雑なトラブールは、第二次大戦中はレジスタンス活動の場としても利用されたらしい。

そもそも、なぜ迷いやすいのか

3階建ての2棟で構成される8号館は、ほぼ左右対称な上に、2階も3階も造りがかなり似ている。わかりやすくするために、大きな通路をはさんで左右にある各棟を、本コラムではそれぞれ西棟、東棟と呼ぶことにしよう。

各棟の中には、それぞれ中央にある入口から入ることができ、階段を登ると3階、下ると2階といった構造だ(ちなみに通路は2.5階)。写真のとおり、西棟、東棟は外観だけでは区別がつかない。

これだけではない。

問題は2階である。なぜなら2階には、通路のある3階とは異なり、同心円状に通路や教室がある。行き止まりがなく、すき間から見える景色もほとんど同じ、歩いているうちに方向がわからなくなってしまうのだ。

しかし、迷路のような8号館もいくかのポイントを覚えれば攻略できるはずだ。筆者は2ヶ月という長い期間をかけ、研究に研究を重ねた。そして、ついに8号館で迷わないための「7つのポイント」を発見するに至ったのだ。ややこしいところについては、親切なゴロ合わせの覚え方とともに、紹介していこう。

(1) 教室番号は「○号館の○階の○○教室」

まずは教室番号の基本から。8号館の教室は「82○○」や「83○○」というように、「8 (=8号館の)2(=2階の)○○(=教室)」となっている。中央大学の教室は基本的に同じルールで名付けられ、6号館の5階の04教室なら、6504教室となる。これは、ほとんどの中大生ならば知っているだろう。

(2) 教室の並びは「時計回り」

続いて、8号館の基本知識。フロアマップを見ると一目瞭然だが、8号館の教室の並びは、西棟入口の正面を基準に時計回りに配置されている。つまり、右に回ると教室番号が1つずつ増えていくということ。このルールを覚えておくだけでも8号館攻略がかなりラクになる。

しかし、このポイントは2階では使えるが3階では使えない。3階は西棟・東棟が分断されてしまっているからだ。手強いぞ、8号館!

(3) 西棟と東棟を見分ける方法

入口の写真を見ただけでは、西棟か東棟かの判断が難しい。しかしひとたび階段に踏み込めば、それを見分ける方法がある。

西棟の階段を登れば、そこは3階で唯一、緑あふれる森が見られる場所(ちなみに階段を降りると、2階からも森は見られる)。さらに、この位置から時計回りに01〜08教室が続いている。つまり、“西”棟の“森”が見える場所が、8号館の“基準”地点なのである。

突然だが、僕の友達に西森という男がいる(実話)。彼はかなり自己中心的な奴で、いつも自分基準でものを考える。彼のことを考えると8号館のことを思い出す。僕はそんな風に覚えている。

覚え方:「8号館は西森基準」

では、東棟の階段を登ると何か見えるのか。

ご覧のとおり、実は東棟からも森は見えるのだが、その手前に校舎がある。

中大の中でももっとも新しい総合政策学部の「11号館」。ちなみに、この学部は少人数で、学部内の交流も非常に盛ん。留学生も多く、またファッションが個性的な学生が集まっているせいか、どこか他の学部とは違う雰囲気を醸し出している。

ん、ちょっと待てよ。。。

「11号館」ができたのは1993年。ということは、かつては東棟からも森しか見えなかった。つまり、西森基準は使えなかったわけだ。恐るべし、8号館!

西棟・東棟を見分ける、もうひとつの方法

西森基準が使えなかった場合に備えて(現在ではありえないが)、西棟と東棟を見分けるポイントをもうひとつ紹介しておこう。これは3階に限った話なのだが「ベンチの数」で見分ける。

西棟:8301の前に3脚、8308の前にも3脚の計6脚
東棟:8304の前に2脚、8305の前には1脚の計3脚

西棟のほうがベンチ(=イス)数が倍ある。

覚え方:「西伊豆でバイバイ」

(4)西棟、東棟の教室番号「下2桁」を覚えよう

すでに多くの読者がついてこられなくなっているのを承知で続けよう。

仮に西棟、東棟が見分けられたとしても、これだけでは8号館攻略は難しい。なぜなら、各棟と教室番号がうまく紐づけられないから。「西森基準」で西棟に「01」教室があることはわかっても、他に何番教室があるかはパッと思い出せない。

ちなみに正解は以下、なんともややこしい。

西棟にある教室番号の下2桁:01、02、07、08
東棟にある教室番号の下2桁:03、04、05、06

では、どうやって覚えるか。ヒントは、通路奥に設置されている自販機にあった。メーカーごとにいくつか置かれているが、その中で「KIRIN」の自販機に入ったある銘柄に注目してほしい。

「KIRIN LOVERS SPORTS」2本が西棟、4本が東棟。

覚え方:「KIRIN LOVERS SPORTSが2(02)本だけじゃ、イ(01)ヤ(08)な(07)の。でももっと飲んだら、お腹ミ(03)シ(04)ミシ、ゴ(05)ロ(06)ゴロ」

ドリンクを買いにいったついでに確認できる、効率的な覚え方である。ただし、季節の変わり目に配置や銘柄が変更になることもあるので注意が必要だ。

さて、ここまでは8号館の2階、3階に共通するポイントを見てきた。

しかし、何度もいうように本当にやっかいなのは2階である。おさらいをすると、外の見える場所が少ない上、教室が同心円状に配置されていて、自分の位置が把握しづらい。そこで2階は、教室と目印を結びつけて覚えることを推奨したい。

(5) 「8201」教室とトイレ・水飲み場の並び順

まずは「8201」教室について。ここでのポイントはトイレと水飲み場の並びである。

フロアマップを見るとわかるが、トイレは西棟では01教室、東棟では180度反対側の05教室の脇にある。位置は2階、3階で共通していて、必ず水飲み場がセットになっている。

そして「8201」脇のみ、左から「女子トイレ」「水飲み場」「男子トイレ」となっている。

他の場所では、水飲み場に隣接するトイレは男子トイレ、女子トイレのいずれかのみ。「8201」教室脇の水飲み場は、用を足してすっきりした男女にとって、最適の水分補給スポットであることは間違いない。

覚え方:「男女に一番(01)人気の水飲み場」

(6)「8202」教室と謎のくぼみ

続いてお隣の「8202」教室。「8201」教室のトイレ配列を確認するよりもわかりやすいポイントが、壁にある「謎のくぼみ」。ちょうど、男2人がスポッと座れるくらいの絶妙なサイズ感である。

覚え方:「謎のくぼみには2(02)人入る」

(7)「8206」教室と公衆電話

最後は、180度反対側にある「8206」教室。ここには「8202」教室と同じ謎のくぼみがあるのだが、なんと公衆電話が置かれている。

ちなみに先日、ここを歩いていると学生が公衆電話を使っていた。時刻は夜6時くらい。たしかに携帯電話の充電はだいたいそのくらいの時刻に切れるものだ。

覚え方:「公衆電話は6(06)時に使う」

おわりに

複雑でたどり着けないとか、そのせいで単位を落とすとか、さんざん言った手前、たいへん恐縮なのだが、「魔の8号館」もいくつかのポイントを抑えるだけで、実はすごくシンプルであることがわかった。

教室の配置は規則的だし、そもそもキチンと確認すれば教室番号の表示だってある。入り組んだ構造は迷路に迷い込んだような楽しさもあるし、しかも意外と開放感もあって、とても気持ちのいい建物だ(いつも行くのを諦めていたので知らなかった……)。

最後に、WEBをご覧いただいたみなさんに、プレゼントをひとつ用意した。「8号館完全攻略マニュアル」のPDFファイルである。携帯やスマホにダウンロードして単位取得のために役立ててもらうもよし、プリントアウトして8号館ツアーに出かけてみるもよし。思い思いの方法で、活用していただければ幸いである。

 中大8号館完全攻略マニュアル ver. 1.0