「物々交換所」とは? 利用方法とその目的

まず、この「物々交換所」について簡単に説明したいと思います。「交換所」といっても、管理人がいたり事務所があるわけではありません。キャンパスのちょうど真ん中あたり、7号館下にあるひっそりとしたスペースにラックやハンガーが置いてあるだけといった、意外にも簡素な見た目。いらないものを置いていくもよし、欲しいものがあれば持っていくもよし。必ずしも「交換」という形をとらなくてもよいようです。

私も入学してからその存在を知り、当初は驚いたものの、いつしか何の疑問も抱かずに利用するようになっていました。また、周りのムサビ生も大いに活用しています。ちなみに主な目的としては、以下のような理由が挙げられます。

・いらないけど捨てるのはもったいないものを置く
・引っ越しの際、家具・家電などの処分のため
・課題に使えそうな素材を探すため
・寒い時期に、防寒着(古着)を探しに

物々交換所では、こんなことがあった!

さて、ここで物々交換所をより具体的にイメージしてもらうために、私の実体験を元にしたエピソードをイラストにしてみましたので、ご覧ください。

とにかく反応が速いムサビ生。

制作に使えそうな素材の残りや画材なんかは、やはりうれしいです。

自分で捨てればいいのに……と思うようなものも多い気が。

どこにでもあるわけではない物々交換所が、これだけ浸透しているのもすごいですが、なんといってもすごいのは「置いてあるものが100%なくなる」こと。「これはさすがにもらい手がつかないだろうな……」というものでさえ、ずっと残っているというのを、今まで一度も見たことはありません。

本当に何でもなくなるのか、とりあえず実験してみた

では、本当にどんなものでももらい手がつくのか、もらわれていく不用品に限界はあるのか、実験してみました。今回の実験では、以下の3つのものを、それぞれメッセージ付きで置いてみることに。

1 衛生上持って行くのをためらう「食べ物」
2 持って帰っても困る「使えそうにないもの」
3 運ぶのが大変な「巨大なもの」

ムダに英語。実験日が12月だったため、ムサビサンタからの贈り物を装う。もらってくれた人に感想やエピソードを取材するため、裏にはアドレスも記載しました。

まず 1 は、構内のパン屋で買ったお菓子。

実験結果は……

なんと置いてから、わずか20分ほどでなくなりました。置いた直後に手に取った人はかなり警戒していましたが、その後見に行ったところ跡形もなく(知らない人が置いた食べ物に抵抗感のないムサビ生って……)。

次に 2 は、もらっても微妙に困るもの……ということで某教授の似顔絵を(このためにわざわざ描きました)。

実験結果は……

なんとこれも、置いてからわりとすぐ、もらわれていきました。

そして 3 の「巨大なもの」を……と思っていたところ、このときになって初めて物々交換所に関する貼り紙がしてあることに気づきました。

それによると、

・どうやら管理人がいるらしい
・一応ルールがあるらしい(飲食物を置いてはいけなかった!)
・朝のゴミ収集のときに、清掃業者の方が残ったものを回収しているらしい

ということが判明。これで、「どんなものでも100%なくなる」謎は解けました。

さらに詳しい話を聞くべく、さっそく管理人さんにメールを送ってみるも、古い貼り紙だったのか連絡は取れず。一応、学生生活課にも問い合わせましたが、「管理は完全に学生が行っていて、大学側は一切関与していない」とのこと。また、実験 1 2 で試みたムサビサンタへの連絡も一切なし、ということで取材は難航……。

ついに創設者を発見! インタビューを決行

困り果ててインターネットで検索してみたところ……なんと、あっさり物々交換所の創設者にたどり着きました。創設者は、ムサビ卒業生の酒井貴史さん。ムサビ以外の場所にも、物々交換所を広める活動をされています。取材交渉をしたところ快く引き受けてくださり、Facebook経由でのインタビューが実現しました。

――物々交換所は、いつ設置されたんですか?

今から6年前くらいです。大学側に届けも出さず勝手に始めました(笑)。そのあと、大学から交換所について確認を受けたりもしましたが、現在も黙認してもらうような形で存続しています。

――始めようと思ったきっかけは何だったんでしょう?

僕が所属していた関野吉晴教授のゼミでは、学生が自力で味噌や醤油を作ったり、畑を作ったりしています。その中に、地域通貨や物々交換の場を作る試みがあって、毎週「物々交換会」が行われていたんです。ただ、持ち寄り式だとなかなかもらい手がつかないため、「交換所」にしてしまおうと考えて、大学内に勝手に設置しました。
美大のゴミ集積場にはまだ使えそうな素材もかなり捨てられていて、最初は自分の部屋に溜め込んでいました。でも、いつしかゴミ屋敷状態になってしまって……。また、捨てるのはもったいないけどいらない、というものの活用方法を探していたこともあって、僕の中で需要と供給が完全に一致したんです。

――持って行かれたかどうかは関係なく、これまでに置いてあった中で面白いもの、驚いたものがあれば教えてください(ムサビ以外の交換所のエピソードでもかまいません)。

折り畳み式のカヤック、イルカの頭骨、アンティークっぽい古時計なんかが思い出深いですね。

――他の場所にある物々交換所は、ムサビに設置したあとに広めていったのでしょうか。また今後の展開は?

はい。始めた当初から、「ある場所では余っているものが、別の場所では需要があるかもしれない」という感覚があったので、自然に他大学やカフェなど、ムサビの外部にも作るようになりました。今では僕の地元、宮城県の山元町と石巻にも物々交換所ができました。東京と地方の間の物質や情報のつながりに新しい流れを作り出すことができないか、いろいろ試してみたいです。

――最後に、ムサビ生に向けて何か一言メッセージをお願いします。

近い将来、とくにクリエイティブな業界においては、オフィスなどに物々交換所の設置が当たり前の世の中になると思います。就職した会社にまだなければ、ぜひ作ってください!

おわりに――需要と供給さえ一致すれば美大以外でも

ムサビ生もそうでない方も、このコラムをお楽しみいただけましたでしょうか? 貼り紙があったことや設置に至る経緯など、これまで当たり前のように活用していたにもかかわらず、在学3年目にして初めて知ることばかり。「物々交換所の謎」にここまで迫った人は、たぶんムサビ生の中にもそうそういないのでは、と勝手に満足しています(笑)。

「物々交換所」というシステムが成り立っているのは、美大という特殊な環境だからこそだと思っていました。しかし、酒井さんが話してくれたように、被災地やオフィスなど、そこにいる人々の需要と供給さえ一致すれば、案外どこに設置しても受け入れられる可能性は高いのかもしれません。

これから入学する人、また進学を考えている人は、ムサビに来た際にはぜひ「物々交換所」を探してみてください。

インタビューにご協力くださった酒井さん、どうもありがとうございました!

★酒井さんが運営する「物々交換所」のページはこちら(twitterもあります)。
http://butubutukoukanjyo.web.fc2.com/

最後に酒井さんの「物々交換所」ページ 定点観測映像より、ムサビの物々交換所の様子を。